2008年06月20日

日和山 ひよりやま 2

■たつの市御津町室津■

唐荷島と古代船入港.JPG   藻振りの鼻.jpg 


 おだやかな表情をみせる播磨灘も、じつは複雑な海流の動きでおこる潮の急変があり、天候の悪化による自然現象では天気の回復を待つしかない危険一杯の航路であった。快晴だからと出船しても行く先が大雨であったり、突風に出合えばたちまち破船して沈没、積み荷はおろか人命までも危険にさらされる。ましてや藩主が乗船する御座船の船頭たちは観天望気に命がけで取り組んだに違いない。しかし気象は土地の立地条件をもっとも反映するものであるから、優秀な経験をつんだ船頭であっても他国の気象は油断が出来なかったようだ。
 このため土地の気象に熟知した地元の日和見をする人たちの判断を優先して、航海の安全を見きわめたようである。
 室津でも本陣や廻船問屋、それに船宿なども加わって日和見に習熟した人を選び出し、その予報を出港する船に伝えるのも主要な仕事であった。室津本陣の一つで薩摩屋の屋号をもつ高畠家史料に遠見屋嘉十郎・遠見屋嘉七郎などの屋号が見えるので、このころ設けられた遠見番所で遠見や日和見に従事した人がいたと考えられる。
ここで薩摩屋の当主孫九郎が書き残した資料に、日和を検討した文書が見えるので読み下し文で紹介してみよう。

一 御献上物御用に付き上村久兵衛殿、
  児玉角兵衛殿・有馬傳右衛門殿並び
  に下宰領御両人御登り成され、今月廿
一 日当津御舟成され候処、大西風に
  て昨日迄御見合い成され候へ共、中々
  播州灘御渡海成り難くに付き、則ち当
  地日和見之者召し呼び、御来航の船頭
  立会い、日和の儀吟味仕り候処、今
  廿三日中当灘渡海の天気決して御座無
  く候、之に依り、今朝卯の刻、当地よ
  り摂州大坂迄陸路御揚がり成され候処
  紛れ御座無く候、仍って一札くだんの
  如し
 播州室津御問屋
         さつまや 孫九郎
宝暦八年寅 十一月廿三日
    大坂薩州御蔵屋敷 御手形所

 つぎに、姫路の中島貞信氏が所蔵する室津の本陣肥後屋の文書と伝えられるものの中に日和札が数枚見受けられる。襖の下張ということから文書は断簡が多く、年号の記載のないものもあるが一部を紹介してみよう。なお熊本藩では日和見を重視、日和山には日和見専門の役人を常置して、専門家養成のために天気を入札させて競ったとの記事が『船・
地図・日和山』南波松太郎に詳しく記されているので、室津でも出船に先立ち熊本藩独自の方法で日和札の入札が行われていたことが伺える史料である。

日和札   豊田庄左衛門
 明廿三日之天気朝之内地嵐昼立候得ば北西風
 吹可申と奉存候已上 
  正月廿二日

日和札   大嶋彦左衛門
 明十七日天気やませ
 日和雨天付尤北東風吹可申様に奉存候已上 
  三月十六日

 さて日和山にはいくつかの条件が必要とされる。
・ 日和を見るために展望が利かなければならない。
・ 湾内を一望できなければならない。
・ 一日に何回も登るために村から遠くなく、高くなく駆け上がれれば  よい。
・ 出港する船の無事を願い見送るために湾に近接していた方が良い。
・ 入り船の帆印の確認などができる距離でなければならない。
・ 入り船にとって目印になるような山でなければならない。
  (例えば大きな木があったり、燈篭や番所などの建造物)
などなどである。室津の日和山はまさにこれらの条件を兼ね備えた山といえるだろう。
 この山では雲の動く早さや微妙な色や形、また風の動く方角や音、それに波のそよぎまで自然を注意深く見分けることが可能であり、港内が一望できる好立地である。目印となる山頂の燈篭堂近くには、長い航海を終えた船乗りたちが無事に帰ってくることを祈念した人びとがぬかずいた祠がきっとあったに違いない。
安全で先端技術を駆使した汽船の就行に加え、鉄道の開通という時代のうねりの波に、もはや日和見の必要が失せたとき登ることが少なくなった日和山の祠は、このころ賀茂神社の境内に移築されたのかも知れない。
 史料の無いままあえて推論を試みるならば、境内社の一つ橄取社がそれではないかと思える。由緒も知れず創立さえ不明とされる社の御祭神は、上筒之男、中筒之男、底筒之男の御三神である。面舵いっぱい、取り舵いっぱいの叫び声は海底の御祭神へ届いたのであろうか。 


posted by 早春 at 20:39| Comment(1) | 地名アラカルト | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ふら〜と立ち寄ったら長居してることに気づきました
楽しかったんで(勝手にw)お気に入り登録させて頂いてます♪
ブログつながりで昨日もたまたま面白い記事を見つけちゃぬました
とても興味深い内容でしたのでよかったらどうぞ♪
http://furutoisshodayo.web.fc2.com/
これからも楽しいブログをお願いしますね♪また遊びにきますよ^−^
Posted by ミズタマ。 at 2008年06月21日 19:15
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス: [必須入力]

コメント: [必須入力]

×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。